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ここは、自分のこだわりを書き綴った場にしたいと思ってます。小説はすべて私の頭の中の妄想・空想を書き綴っています。


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化け猫・3章

化け猫その3

※ 船宿・杉元屋の1階。

2階から降りてきたお彩。すでに1階の長火鉢の前に肥前屋が座っている。
「あら、旦那様もう、いらしてたんですか?」
「お彩、おめえ、2階でお結様に変な真似してねえだろうな?」と聞く肥前屋。
「当たり前じゃないですか。旦那様の大切な御人でしょうから。ふん!。」
お彩は、肥前屋が若く綺麗なお結に興味津々なのが気に入らない。
「もちろん縛り上げて、それに猿轡も噛ませて、おとなしくさせてますよ!。でも旦那!あんな小便臭い小娘が何でいいんですか?あたしってもんが有りながら。まったくどこがいいんです?あたしは口惜しい!」
と身体を肥前屋に委ねながら、ヤキモチを妬くお彩。思いっきり色っぽい仕草を作る。
「ふふふ」と猿轡姿のお結を想像したかのように、含み笑いの肥前屋。

その時、番頭風の男が、障子を開ける。
「旦那様、今、長崎から使いの者が参っております。明後日の取引の女は何人か?との事に御座います。」
「そうさな、女は3人だと伝えて置け!」と肥前屋。障子を閉める番頭。
「ねえ、旦那様、3人ってどういう事です?あと1人は誰なんです?菜々様とお結様の他にも誰か居るんですか?」と怪訝な顔をするお彩。
肥前屋はこれから宣告する事が、さも面白そうに笑うと、
「ふふふふ。お前らしくも無い事を聞くじゃないか。え?頭の良いお彩もとうとう焼きが廻ったのかい?よっく考えてごらん!ふふふ!………。あと1人はお前さんだよ!」
と言うや否や、お彩の腕を後ろに捻り上げると、懐から素早く細引き縄を出すと、手際良くお彩を縛りはじめたのだ。
「ちょっと旦那!何の真似なんです。ご冗談は止めて下さいな!」
と不意を食らったお彩が喚くように哀願する。
「もう、おめえには用済みなんだよ。第一私の色々な事を知り過ぎたからねえ、それにお前の身体にも厭きたんだよ。異国に行って、南蛮人に可愛がって貰うといいさ!」
と言い終わる頃には、綺麗にお彩を高手小手に縛り上げたていた。
「ちくしょう!あたしまで騙したんだねぇ!この人でなし!鬼!」と喚くお彩。
肥前屋は懐から、無地のグレーの手拭を出すと、器用に結びコブを真ん中に作ると、
「さあ!おとなしくするんだ!」
と言いながら、お彩の大きな口に結びコブが、かっぽりと銜え込むように噛ませた。
「ううーーん!」とうめくお彩。
「お前には随分と世話になったな!まあ、悪く思うなよ!しばらくここでおとなしくしとくんだね。」
畳みに転がされたお彩に声をかけながら肥前屋が笑った。
「さて、と。お結様としっぽりと敷け込む事にしようかな!」
と肥前屋が2階を見上げたちょうどその時だった。
急に外の風の音が強くなったかと思うと、何処からか猫の鳴き声が聞こえてきた。
それも意外なほど大きな鳴き声で、ハッと驚く肥前屋とお彩。大きな結びコブの猿轡が厚化粧のお彩の顔の真ん中で自己主張していて、驚いたように眼を見開いてような顔のお彩。
「ううーん、うん、うん」と呻き声を上げながら、顔を上下左右させている。
行灯の火がすーっと消えると、障子に何故か大きな獣の頭の影が映り、次ぎの瞬間、肥前屋の絶叫とともに、障子に返り血がパッと飛び散った。
傍らには恐怖に慄いた顔のお彩。
猿轡越しに「キャー!」と喚いている。
お彩の顔にも返り血がかかり、後ろ手に縛られたまま後ずさりしている。
猿轡のまま恐怖に慄くお彩の顔のアップのあとに又新たな絶叫とともに、また返り血が部屋中に飛び散った。
血の海の部屋の中で死んでいる2人の男女の遺体が残されているシーンが続く。


※再び肥前屋の別宅の土蔵の中。

猿轡を噛み締めて目の前の国家老を睨みつけている菜々の顔のアップ。
本当に口惜しくて無念で怒ったような眼差しでキッと正面を見据え、紺の小紋柄の手拭の結びコブを、深く口の奥に噛み込んでいる。
唇の端と頬にしわがよっていて、唇の両端の手拭が捩れて唾液で変色している。
その表情は馬がハミを銜えているように見え、「テレビDID史上最高傑作」と後世まで語られる伝説になる正面からのワンシーンである。

国家老・蚊取船侯がスケベ親爺全開で、菜々に迫ろうとしていた。
四つんばいになりながら、涎を垂らさんばかりの顔で舐めるように縛られた菜々の全身を見ながら接近してきていたのだ。
「菜々殿!とうとう2人きりになったのう!ふふふ。この時をどれほど待ち焦がれた事か!今宵は誰の邪魔も入らぬぞ!」
さすがの菜々も貞操の危機が目前に迫ったことを悟り、
「ウンン-ン!」と呻き声を振り絞って身体を揺すった。
この世でもっとも汚らしいものを見るかのような菜々の鋭い眼光からは(寄るなけがらわしい!指一本でも触れたら舌を噛みきって死にますよ!)と言っているように見えた。
「何もそのように邪険にせずとも、良いではないか!ふふ。おおー、そうじゃ、そうじゃ、今しがた使いが参ってなあ、義理の妹御の結とか申す娘も無事拐わかしたと連絡があったぞ!」。
ハッと顔を上げ、再び家老を睨み返す菜々。
「この上、菜々殿が舌を噛んで自害したら、妹御の命までなくなるのじゃぞ。妹御の命を助けとうはないか?。どれどれ、いい加減に我を折らぬか?さすれば、このような無粋な猿轡など外して進ぜよう!これではさぞ辛かろう!どうじゃ、首を縦に振らぬか?」
とお為ごかしに言いながら国家老の手が、正座をしている菜々の着物の裾に伸び、身を捩って菜々が身体を揺すった時であった。
土蔵の中に突然、猫の大きな鳴き声が聞こえ、またも蝋燭の灯が消えたのである。

それからが、このドラマのクライマックスであった。ホラードラマの見せ場である恐怖シーンが流れ続けたのある。化け猫に襲われ恐怖のどん底を味わう国家老と同じく驚きのあまり、眼を見開き、猿轡を深く噛み込んで巨大で獰猛な黒猫を見つめる菜々の顔のアップシーンが延々と流されたのである。
最後に国家老の返り血が菜々の白装束を真赤に汚し、顔にも返り血がかかったシーンで終わるののである。

翌早朝、お城の濠割に国家老の倅・蚊取信之介の遺体が浮き、人々が騒いでいるシーンがラストであった。
国家老の屋敷に役人たちが出向くと、屋敷中が血の海であり、家臣たちの皆殺されているシーンのエンディングの後、旅装束の女性・2人が街道を歩いている後ろ姿を見せながらの「完」の文字が浮き上がってきたのであった。
2人の女性は、その後江戸に出向き、歌舞伎役者と結婚し、「中村屋」を興したと伝えられているのである。

350年もの間、佐賀の人々に言い伝えられた「化け猫騒動」。語り継がれる史実を再現したというだけあって、それはそれは恐ろしい物語であった。 ~ベスト~


化け猫・2章

化け猫その2

※ 反町家の座敷。

仏壇の前に正座して拝むお結。睫毛が長く見える目を伏せた横顔が美しい。
武家娘らしく帯には、紅房の付いた包みに入った懐剣を差して凛々しい。
(兄上。どうしてこうなったのでございます。義姉上様も仇討ちに出かけられて、もう半日も経ちますのに、行方知れずになってしまわれました。仇・蚊取信之介の姿もどこにもないのです。御目付け様は訪問しましたら、昨晩亡くなったとの事で、どなたにお尋ねしても仇討ちなど知らぬ、と申されます。結はどうすればよいのですか?)
お結の目から一筋の涙が零れ落ちる。
すると、泣き声と共に、黒猫が寄ってきた。
兄、龍之進が可愛がっていた愛猫のクロである。
「クロ!クロ何処にいってたの?心配してたのよ。無事だったのね。とうとうあなただけが、兄上様の御形見になってしまったわね。でもクロ!以前より随分大きくなったみたい!」そうクロに話掛けている時に、玄関から女の声が聞こえた。

「ごめんくださいまし!こちらは、反町様のお屋敷でございますか?。」
「ハイ」と結が玄関に立つ。
玄関には、着物を着崩して、水商売の女将を思わせる妖艶な年増が立っている。
「わたくし花蛇町で船宿を営む杉元屋のお彩と申します。今、こちらの奥方様の菜々様が、手傷を負われて、わたくしどもの船宿で手当てを致しておられます。結様と申される妹君様を呼んできて欲しい,と申されまして、何でも仇討ちで傷つかれたとか、白装束でいらっしゃいます。」
「エッ、義姉上様が!。で義姉上様の怪我はどうなのです?」と驚くお結。
「ご安心下さいませ、ほんの浅手でおられますわ。それでは結様とは、貴方様で?それは良う御座いました。・・・・・・・それではさあ、早く!」
気が動転している結は、すっかりお彩を信じて、ついていく。

人気の無いお寺の裏道。早足の二人。
鐘撞き堂の角を廻ると、数人の浪人がたむろしており、1丁の駕籠が置いてある。
駕籠の簾が上がっており、中には束ねられた縄束と、真ん中に結びコブを作った大きな柄模様の手拭が置いてあるのが映しだされる。

【ここでまた、ベスト氏は内心やった!と喝采した。これで、結は縛られ猿轡される。その上、結びコブの猿轡に違いない!この演出の素晴らしさ。視聴者に猿轡を事前に見せるとは何と粋なことかと、拍手喝采したかった。】

さっと浪人達がお結を取り囲む。
「騙したのですね!」そう叫ぶと、帯の懐剣に手が伸びる。
「さあ、早く!召し捕ってくださいな!」というお彩の言葉。
「狼藉者!無礼をすると許しませんぞ」と言葉は勇ましい。
さっと、お結に近づく浪人達。あっという間に懐剣を払い落とされ、1人の浪人に、口を背後から塞がれて、もう1人から鳩尾に帯の上から当身を入れられる。
「ウッ」という呻き声と同時に崩れ落ちるお結。抱きかかえる浪人達。

気を失った顔に、頬が割れるような厳しい絞りの猿轡を噛まされたお結が、浪人達に抱きかかえられて駕籠に乗せられる。猿轡はやはりさっき駕籠の中にあった同じ大きな柄模様である。傍らで薄ら笑いを浮かべて腕を組んでいるお彩。
駕籠の中が映しだされ、気を失ったお結の顔のアップ。かなりキツく噛まされており、頬がよじれている様に見える。

しかし、その時、鐘撞き堂の横で、後をつけて来たのかのようにクロが目を光らせていた。さっきよりまた少し大きくなっている。鋭い眼光に牙を剥き、まるで黒豹のような獰猛さが漂っている。


※船宿・杉元屋の2階。布団部屋。

お結が後ろ手に縛られ、猿轡を噛まされて、必死に身悶えしている。
猿轡された顔がアップにされる。
駕籠の中にあった同じ柄の手拭を噛まされているが、大きな柄模様の位置がさっきの駕籠の中のシーンとは違っている。
顔の斜め前からのアップの為、猿轡の結びコブがはっきり見える。

そのシーンを見て、ベスト氏は、
【あっ、結子ちゃん、途中で、休憩してたでしょ!一回猿轡外したんだよね!。それで、撮影再開の時、また同じ手拭を噛まされ直されたの?と突っ込みを入れた。でも、やはり同じ手拭、同じ結びコブを使ってくれる、その配慮がマニアには嬉しいんだよね!。】

顔を振りながら、やっとの思いで、猿轡を外すお結。口から大きな息をひとつつく。
結びコブが作られた猿轡の手拭が首からぶら下がっていて、コブが大きい固いクルミのように見える。
後ろ手に縛られ、少し帯が乱れ、手拭が首からぶら下がっている姿が憐れを誘い、艶かしい。

そこに、丁度、ろうそくに火を灯して、お彩が部屋に入ってきた。
猿轡を外し、身悶えしている、お結を見て、
「逃げようとなさっても、無駄で御座いますよ。」と妙に丁寧に話かけるお彩。
「この狼藉者!。何のマネです。!それに義姉上様はどこにいるのです。!」
と厳しく詰問してきた。
全ての事情を飲み込んでいないように感じたお彩は、仇討ちが仕組まれた罠であり、菜々が信之介一味に騙されて捕らえられた事を話した。
「おのれぇー!卑怯な!。それでは、義姉上様はどちらに居られるのです!」
「廻船問屋・肥前屋さんの別宅ですよ!。その土蔵の中に押し込められておられますよ。ほほほ!。」
「では、義姉様は生きて居られるのですね。」と必死に聞くお結。
「ええ、生きていらっしゃいます。」そう言ったお彩は、さっき見た菜々の猿轡を噛まされた顔を思い出したのか、急に笑いだした。
「何が可笑しいのです?」とムッとして聞き返すお結。
「いえね、確かに生きてはいらっしゃいます。ふふふ。それが、考えたら可笑しな話なんですよ。生け捕りにされる時に、「死にたい!」、とおっしゃって舌を噛んで自害成されようとなさったですって。その時,死ねれば良かったんでしょうけど。ふふ。
でも寸前の所で、仇の蚊取信之介坊ちゃんのフンドシを口に押し込まれて死なせてもらえなかったんですよ。さっき、わたしも土蔵の中の菜々様を拝見してきたんですけどね、ふふ、舌を噛んで自害出来ないように、そりゃもう、厳しい猿轡を噛まされておられましたよ。お口の中には相変わらず信之介坊ちゃんのフンドシを噛まされて居られるとかで。
御可哀想に!お綺麗な顔が歪むくらい猿轡をキツく噛まされていなすって、それはそれは、お辛そうで御座いました。女は死に際を間違えるもんじゃありませんねぇ。憎っくき仇の下帯を口に詰めこまされた猿轡を噛まされるって、菜々様もどんなお気持ちで御座いましょうねぇ、ほほほほ。」
と楽しそうに話すお彩。フンドシはお彩の作り話である。
義姉の菜々のあまりに残酷な姿を想像したのか、
「おのれぇ、卑劣な!恥を知りなさい!」と叫ぶお結。
「いえね、女の生き恥を晒すって、全く嫌で御座いますねぇ、今晩は国家老・蚊取様から、縛められたまま、たっぷりと女の恥をかかされなさるって聞いておりますよ。死ぬ事も叶わぬ女の生き地獄を味わいなさるんですよ。ほほほ!」
その話を聞かされた結は、あまりの事に涙目になり、唇を噛んで俯いたのである。
「さあ、おしゃべりもこれくらいにして、お結様も静かに為さって下さいまし。」
「そうそう、お結様も変な気を起こされちゃかないませんわ。肥前屋の旦那に叱られちゃいますもの。もう、旦那様もじきに参られますよ!」
そう言うと、お結の背後に廻り、首筋に首飾りのようにぶら下がっている猿轡を持つと、再びお結の口に結びコブを捻じ込み、首を振って抵抗するお結の顔に厳しい猿轡を締め直した。
お彩の締め直した猿轡は、いかにも乱暴に扱ったのか、以前より一層厳しく口と頬が歪むほどに噛まされた。
そこで、お彩は、結の正面に立膝を立ててしゃがみこみ、猿轡された結の顎先をグイっと掴むと、これまでの馬鹿丁寧な口調を一変させ、あばずれ調で凄んだのである。
「まったくこんな小便臭い小娘のどこがいいんだい。あとで旦那がいないところで、たっぷりいたぶってやるから、覚悟しとくんだね。ふん。」
そう言って、結の顎を投げるように突き放したのである。
目に涙をうっすら浮かべながら、結はきつく噛まされた猿轡の結びコブを噛み締めていた。
将にその歪められた顔は、まるで清楚な一輪の香梅が無残に手折られたかのように、結の口に残酷と思えるほど、厳しく嵌められていたのである。

化け猫・1章


これは、ボンデージ評論家のベスト氏が1昨年、九州を旅行した際、たまたま見た地元テレビ局開局40周年の記念ドラマである。今から350年前、佐賀・鍋島藩を揺るがしたあの有名な『化け猫騒動』の顛末を史実に沿って再現した怪奇時代劇2時間ドラマである。
地元でのみの放映の為、全国的にはまったく知られていない番組であり、今回、ベスト氏が記憶を元に再現してみた物語の一部分である。

          『化け猫~佐賀・鍋島350年の怨念』

ドラマは、今から350年前、肥前・佐賀藩の勘定吟味方・反町某が、国家老と廻船問屋が密かに結び抜け荷を行っている事実を掴んだことから始まる「有名な怪談話」である。
動かぬ証拠を握られた国家老は、倅たちを使って反町某を闇討ちにするのである。
しかし、言い伝えによると、殺されたその死体の傍には、反町某が可愛がっていた黒い一匹の猫が、どす黒い血を舐めながらいつまでも鳴いていたといわれている。

(物語を仇討ちシーンから再現することとする)

※卯の下刻。城下を流れる嘉瀬川の河原。
1人の背の高い武家の妻女が、仇討ちに臨んでいた。
妻女は亡き夫の仇を討つ為、果たし状を突きつけていたのだ。
しかし、白装束に白足袋、白い鉢巻をし、小太刀を手にしたその妻女の前に2人の男が立ち、ひとりの商人風の中年の男が右手に短筒を持って、妻女に銃口を向けていた。
「さあ、おとなしく得物をお捨て下さいませ。!いくら小太刀の名人でも飛び道具には敵いますまい。」と商人風の中年男。
「おのれぇ、蚊取信之介!卑怯な!御目付け様からも許された尋常な仇討ちですよ!武士らしく正々堂々と立会いなされませ!」と妻女は商人のかたわらに立つ武士に言っ放った。
「御目付け様だと!ははは!目付・松健太郎は我らにすでに懐柔されておるわ!」
と喚く若侍・蚊取信之介。
その言葉に動揺する妻女。
実は、妻女の小太刀の腕前は、直新陰流の免許皆伝であり、西国一の女武者と言われるほどの剣の達人であったのである。
しかし、さすがの妻女もその一瞬、心に動揺が走り、隙を作ってしまったのである。
それを見透かしたかのように、物陰から浪人風の侍が、突如現われ、刀の鞘で、妻女の小太刀を払い落すと、「それ!」と言う合図に、多勢の男達が草むらから襲いかかり、妻女は無残にも絡め取られてしまった。
河原で両腕を浪人達から捻り上げられて、押さえつけられた妻女は、
「おのれー!卑劣な!これが武士のする事ですか!」と叫び、無念の表情を浮かべた。
その後、覚悟を決めたかのように、口唇を噛むと、顔を下の背けたのである。
次ぎの瞬間、蚊取信之介が妻女のあごと頬を鷲掴みにすると、
「おーっと、そうは参らぬ!。生け捕りにして参れとの父上からの仰せでのぉ!。
舌を噛まれては元も子もないわ!それッ!クツワを噛ませろ!」と浪人達に命じたのである。
背後に居た浪人の1人が、素早く懐から煮しめたような手拭を出すと、器用に結びコブを手拭の真ん中に作ったのである。

※肥前屋の別宅。
屋形船から、頭巾を被った身形の立派な侍が降り立つ。国家老・蚊取船侯である。
「これは、これは御家老様!お待ち致しておりました!さあ、中へ!」
侍を屋敷の中に招き入れる。床の間のある豪華な部屋で相対する2人。
「ところで肥前屋。首尾はどうであった?」
「万事手筈通り相成りましてございますよ、御家老様!。ふふふ、いくら女武蔵とか言われる小太刀の達人でも、所詮はおなごのお遊び。他愛もないものでございます。」
「ウム。さすがは肥前屋じゃ、ぬかりはないのう!で、倅は無事であろうな?」
「もちろんでございますよ。何のお怪我も御座いません。しかし、御家老様も悪でございますな!夫を闇討ちにして殺害しておきながら、御目付け役様を懐柔して、国家老の子息と、さも尋常な仇討ち出来るかのように御妻女をそそのかさせて、密かに誘い出し、数を頼みに絡み捕り、我が物になされようとは!恐れ入ってございます。」
「何を申す、肥前屋、抜け荷の証拠を、勘定吟味方の反町龍之進に暴かれ、早く始末をしてくれ、と頼んだのはその方だぞ!」
そこで、家老は元々、反町龍之進に遺恨を持っていた倅・信之介と腕の立つ侍数名を付け,闇討ちにしたのである。
「これで邪魔ものは居なくなってございます。今まで以上に抜け荷で儲けさせていただきます。その際には御家老様にもたっぷりと!」
「肥前屋!その方も悪よの!ははは!」とお決まりの会話で始ったのだ。

「で、肝心の菜々殿はいかがした?」
「ふふ、御家老様が永年懸想されておられた大切な御方でございますもの。丁重に土蔵の中にお連れ致してございます!もちろんここにお連れした事は誰にも見られては居りません。」
「まさか怪我などさせたりはしては、おるまいの!」
「御懸念には及びません!傷など、ひとつも付けさせてはおりません。ただ、」
「ただ、何じゃ、早う申せ!」
「ふふふ、それが、捕らえました時、健気にも舌を噛もうと成されましたので、猿轡を噛ませて差し上げてございます。大事な大事なご家老様の想いのお人でございますもの。御自害なぞされては元も子もございませんので!ふふふ。、」
「自害しようと致したか?殊勝なことよ!ふふふ。」
「では、お待ちかねで御座いましょう。早速ご覧になられますかな」

※肥前屋の別宅の土蔵
仇討ちの白装束姿の菜々が端座している。
武家の妻女らしく背筋をピンと伸ばし白装束で正座している姿が美しい。
後ろ手に縛られ、縄尻が柱に結わえ付けられている。
そして、口には小紋柄の手拭に小ぶりの結びコブが真ん中に作られた猿轡を、唇を割って厳しく噛まされている。
真正面を正眼している菜々の表情をやや斜めからのカメラ。
噛まされた猿轡を悔しそうにグッと噛み締めた菜々の顔は、苛酷な運命を必死に耐えている武家女のいじらしさが表れているような実にいい表情なのだ。
白鉢巻に仇討ちの白装束の着物姿で、乳房の上下を荒縄で2重に厳しく縛められた姿が、仇討ちをしくじった女の無念さを一層引き立てている。

【もうメジャー女優に成っていた反町菜々。どうせユルユルの猿轡ではないだろうか?、と予想していたが、見事に予想を裏切って手抜きの無い、キチン厳しく噛まされた結びコブの猿轡に、視聴していたベスト氏は狂喜乱舞したいほど嬉しくなった。それに通常、時代劇では白装束や、白無垢の花嫁姿の猿轡には白布が圧倒的に多いが、濃紺の小紋柄の手拭を噛ませており、白装束に柄手拭が鮮やかに浮き上がって見えて美しく、ベスト氏は胸が締めつけられるようだった。】

下帯の扱きが乱れ、帯からずり落ちていて、捕らわれた時の抵抗の痕を見せている。
家老と肥前屋が入って行くと、一瞬、2人を見上げて睨みつけた後、眼を落す。
憎むべき仇一味に、逆に縄目の恥辱を受け、死ぬ事さえならぬ無念さが表れている。

「これはこれは、菜々殿。相変わらずお美しい!さすがは藩内一の美貌と謳われた菜々殿じゃ!。嫁がれて一層綺麗に成られたと聞いておったが噂に違わぬお美しさよのお!はははは。夫・反町龍之進の無念を晴らす為、仇討ちとは殊勝な事と誉めてあげたいが、倅を討たせる訳にはいかぬのでな!……… いかがかな、菜々殿。今のご気分は!」
猿轡された菜々は、結びコブの猿轡をキツく噛み締め、呻き声も出さずに悔しそうな眼差しで悪家老をキッと睨み返す。

(おのれ、卑劣な!それでもあなたは侍ですか?仮にも国を預かる国家老の為さる事ですか?恥を知りなさい)と言う菜々の声が聞こえてきそうな眼差しである。
「しかし、肥前屋!。そちも無粋よのう!。菜々殿の顔に猿轡とは!。これでは、藩内一の美形が台無しじゃわ!」
そう言うと、家老は菜々の顔に手をやり、あごを触った。
(寄るな!穢らわしい!死んでも菜々はその方どもの想いのままにはならぬ!)そんな感じにで菜々は首を振って手を払いのけると、顔を背け、眼だけ家老に向けて睨んだ。

【女優はドラマの中で猿轡を噛まされて、眼がセリフを放つようになって始めて1人前の女優である。言葉を発せずとも、眼差しに言葉を出す反町菜々の姿にくらっときたのをベスト氏は思い出す。】

「ハイ、御家老様!申し訳御座いません。しかし、このような御姿も満更悪くはございますまい。ふふふ。後で、ゆっくりと観念させてご覧に入れます。今しばらくお待ちを!」
「何か良い思案でもあるのか?」
「ハイ。ただ、御家老様!想いを遂げられるのは一晩だけにして頂きとう御座います。何と言っても、菜々様と御家老様は仇同士の父御と妻の間柄。狭い御城下で御座います。いつまでも人目に付かぬはずは御座いません。囲い者になど、世間が許すはずもなく、いずれ我々の身の破滅になるか、と存じますが。」
「うーん!、しかし、まさか始末する訳ではあるまい!」
「まさか!菜々様ほどの御器量を持った女姓(にょしょう)など日の本広しと言えども、滅多に居られません。嘉瀬川を下ればすぐに、有明の海。長崎とは目と鼻の先で御座いますよ!。ほほほ」
「では、また異国に売りさばくと申すのか?」
「仕方御座いますまい。武家の奥方なら、高値で売れまする。!」
「そちは、島原の乱の時もそうやって、荒稼ぎしたよのぉ!」
「所詮あれは、土臭いキリシタンの百姓娘!南蛮商人には今一つ不興に御座いました。南蛮人は高貴な武家娘を望んでおります。菜々様なら一体いくらの値が付くが想像も尽きません!」この間、傍で二人の会話をじっと見詰める菜々。

「ところで、肥前屋。ちょっと気になる事があるのじゃ。目付けの松健太郎が怪死したのを存じているか?」と声を潜める家老。
「え!……」と肥前屋。あの懐柔された御目付様である。
「それがのぉ、実は昨夜、寝室で変死したのじゃ!、家人の話では、部屋中が血の海で、無残な死に方だったそうじゃが、斬られた痕も無く、首筋に大きな獣に噛まれたような歯型がついていたそうじゃ。何でも昨晩は大きな猫の鳴き声がよく聞こえたとの話じゃ」
顔を見合わせる2人。

そこで又また、思い返したように、家老が話しを変える。
「おお、そうじゃ、そうじや、確か反町には実の妹御がいると聞いたがまことか?」
「御家老様もお耳が聡うございますな!おられますとも。同じ町内の叔父筋の中村家には子が無く、幼い頃、養女の縁組をなされ、家を出られた結様といわれる娘御が居られます。性は違えど実の兄妹であられます。竹内町小町ともっぱらの評判の美形でございます。それはそれは見目麗しくお美しくて、結殿を誰が娶るかと、城下の若い皆様の間では大変でございますよ。」
義理の妹のお結の事が、悪党達の話題になり、菜々はドキリとして2人を見上げた。
「実はその事で御座いますよ。御家老様!」
そう言うと肥前屋は笑いを噛み殺した。
「何と言っても、反町様の実の妹君。何を聞かされておられるやも知れません。何かに感づいて、江戸の殿に直訴などされぬとも限りませんので。策を用いて拐わかそうと思っております。念には念を押して、口を塞がぬと!やはり千丈の堤も蟻の一穴から,と申しますので!」
「さすがは肥前屋!抜かりないのぉ!一緒に長崎で売る気じゃな!」
「御意!。まもなく致しますと、ここに御家老もご存知の杉元屋のお彩が参ります。あの者を使って、人目の無いところに誘い出し、ここに連れて参ろうかと!おなごの方が結様も油断されるのではと思いましてな!そこで、御家老にお許しを頂きたいのですが、わたくしにも一晩だけ、そのお結様を拝借したい!と考えております。」
「何!その方がお結をか!、そちにはお彩が居るではないか?ふふふ。まあ、よい。好きに致せ!」
「わたくし、御武家の女姓(にょしょう)とは、まだこれまで一度も!ハイ。一度高貴な御武家の娘御を味おうてみとう御座います故!。そこでお彩ですが」
そこまで言うと肥前屋は声を潜め、家老に何か耳打ちしたのだ。
家老の顔が崩れた。「まことその方は悪い奴よのぉ!」笑う家老。
この時初めて、猿轡を噛まされている菜々から、「ううーん」(やめて!)という呻き声が洩れた。
「これは!これは!菜々様には御辛い話でしたな!義理とはいえ妹ですからな!ははは」

そこに丁度、船宿・杉元屋のお彩がやってきた。
「ごめんくださいまし」と言って蔵の中に入ってきた。
「まあ!これはこれは御家老様!ご無沙汰致しております。杉元屋のお彩で御座います」
「ウム!。いつみても相変わらず美しいのぉ!」
「まあ!ご家老様っていつもお上手!お褒めに預かり嬉しゅうございますわ。」

そして、奥の方に目を移すと、奥の柱に縛られている菜々に気付くお彩。
「まあ!この方が反町菜々様ですね!評判通りお美しい方ですわ!」とほくそえむ。
「でも、旦那様。こんな人里離れた所に押し込めておいて、猿轡なんてあんまりじゃないんです?声たてられても、誰にも聞こえはしませんよ!。これじゃお辛ろう御座いましょう。随分キツく噛ませてあります事。!」
「こうして置かぬと、自害されるのでな!気が強い事で評判の御妻女なのじゃ」と家老。
「まあ!御武家の御妻女も窮屈なんですねぇ!旦那に死なれたくらいで、自分まで死ななくってもいいじゃないですか?。ねえ、奥様!私も去年、団の鬼七っていう盗人一味に縛られ猿轡されて朝まで転がされた事があるんですけどね。そりゃ、猿轡が辛かったのをよく憶えてるんですよ。口の中がカラカラになってあごが痺れましてね!ですから、奥様の今の辛さがよっく解かるんですよ!いい加減、我を折られたほうが宜しいですよ!ほほほほ」言葉とは裏腹に全く同情しておらず、逆に嬉しそうである。
「さあ、お彩。お結様も誘き出す段取りをしよう!」そう誘われて3人は土蔵をでて行った。

【この長い会話の間、頻繁に菜々の表情が映し出される。猿轡を噛まされ、呻き声すらほとんど出してはいなが、微妙に表情が変わり、視聴者に捕らわれの菜々の心情が斟酌出来るような作り方にベスト氏は好感を持ったのであった。】

2人が去った後、土蔵の中に取り残された菜々。
相変わらず背筋をピンと伸ばして、正座して縛められた姿をカメラがぐるりと回りながら撮影していく。
首を少し垂れ、身じろぎもせず、呻き声も上げず、前方3m辺りの一点を伏目がちに凝視している菜々の姿の美しさ。
噛まされた猿轡の結びコブを、口深くまで噛み込み銜え込むように噛み締めている。
口元の両端には、手拭が絞まり、強く噛まされている風情が漂っており、下唇の下の顎先に出来たいくつもの縦皺が、服従しない武家の妻女の意思の強さを表現していたのだ。

テレビでは、そこに想い出のシーンが2重映しに描き出される。
1年前、松嶋家から嫁いだ時の婚礼の白無垢シーン。仲睦まじい夫婦の思い出のシーン。拾ってきた黒い子猫を我が子のように可愛がる夫・龍之進。
どこに行くにも、その愛猫は夫の後をついていっていた。
そして、龍之進が無残にも斬り殺された時、その亡骸の傍に、黒い猫が居て、血を舐めて鳴いていた、と他人の口に上っていると聞いた。城下では奇怪と噂になっていた。あの日から、愛猫は自宅には帰ってきていなかった。

その時、蔵の中のどこからともなく猫の鳴き声が聞こえてくる。「ハッ」とする菜々。
(クロ。その声はクロね。)菜々自身の心の声。(クロ何処に行っていたの。旦那様が無念の死を遂げられた時から何処かにいなくなってしまっていたのに。お願い!旦那様とお話出来るのなら、伝えて!菜々はもう!菜々はもう!くじけてしまいそうです!と)

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