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Author:ベスト
ここは、自分のこだわりを書き綴った場にしたいと思ってます。小説はすべて私の頭の中の妄想・空想を書き綴っています。


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回想 避暑地の夜の出来事 その5

第5章

真新しいブリーフとグレーの半ズボンだけを身に付けて、バスルームを出た僕は怯えきり憔悴しきった奈緒子さんを前に愕然とした。
テーブルの上には2人分のサイダーが用意されているのだが、その片方が床に落ち、グラスが砕け散っている。
奈緒子さんが立ちつくし、恐怖に慄く理由、それは彼女の傍らでアーミーナイフを突きつける男の存在。
「だ、ダメ、裕太君…に、逃げるのよ…」
辛うじてそれだけを口にした奈緒子さんの首筋に男はナイフを突きつける。
「ぼうや・・・騒がない方がいいよ このお姉さんの綺麗な顔を切り刻まれたくなければ・・・」
男は猟奇的なセリフを何でもないことのようにつぶやいた。
光るナイフの横で奈緒子さんの美顔が引きつっていた。
男は別に何の変哲もない中肉中背の男だった。
この界隈を散歩していましたと言っても通じそうな…。
しかし、その表情は狂気に満ち満ちている。

「こ、こんなことをして・・・どうなさるおつもり・・・です お金なら底の戸棚に少しは・・・」
しっかり者で芯の強い奈緒子さんは声を震わせながら、荒縄を手にし戸惑った表情を浮かべる。
ここは軽井沢。
富裕層が避暑に使う場所だ。
そこに侵入すれということは金目当てと考えるのが常識的だ。
聡明な彼女は金銭で解決し、身に迫る危険を回避しようとしたらしい。
「余計な詮索はしないで良い 言われたとおりにしなさい」
男は奈緒子さんの言葉など耳に入らぬ風で、あることを彼女に命じた。
「坊やをその縄で縛りなさい」
男は静かだが有無を言わさぬ口調で命じる。
「さあ、まずは首に縄を回して!」
奈緒子さんの白い手の感触とともに、麻縄が腕に巻きつけられる感覚が僕を何処か惨めな気分にさせる。
「そうだ、そして腕にも巻きつけて・・・うまいぞ、お嬢さん」
男のゴツリとした手の感触が、奈緒子さんの遠慮がちの手とともに僕の裸の上半身を伝うたびにその屈辱感は増してゆく。
僕の上半身を縄が這う。
「ごめんね、裕太君」
奈緒子さんの心底申し訳なさそうな声が追い打ちをかける。
時代劇にしろ特撮にしろ、勧善懲悪の世界では主人公に絶対的な強さが与えられている。
僕はその強さが好きだった。
しかし、時にヒーローが敵の罠にはまり捕えられたり、緊縛をされたりする姿を目にするのはどこか屈辱的で嫌いだった。
恥ずかしさと屈辱感が我が事のように全身を駆け巡るあの感覚、まさしく今の状況はそれに匹敵するものだ。
この男の目的は分からない。
でも想いを寄せる女性を窮地に立たせていることは間違いない事実だ。
恐怖におののく彼女を守るどころか、男の自分が真っ先に捕まり、あろうことか、守るべき女性に縛られていく。
少なくとも幼心にも、男は女の子を守るもの、という僕の感覚を突き崩すに十分な仕打ちだった。


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