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鼻猿好男様投稿小説 雪姫無残

第2章

そのとき、襖の外に足音が近づいてきたかと思うと、軍兵衛の声が聞こえてきました。
「房元さま、おられますか、いよいよ弦三郎君を葬るときが参りますぞ。雪姫さまを囮とするため庭の桜の木に縛り付けておくのがよろしいかと思いますので姫をお連れ願いますか」
「ちっ、もっともっと姫を可愛がってやろうと思っておるのに、まあいいわい、本番の楽しみは弦三郎めを葬ってからにすればよいわ。姫それまで楽しみにして待っておれよ」
房元は、その物を姫の口から引き抜くと懐に仕舞い、「姫、恋しい弦三郎がやってくるようじゃ。あわせてやるからさあお立ちいただこうか」
房元は姫を立たせて襖を開け、軍兵衛や配下の者たちと廊下を追い立てて歩かせ、縁側から屋敷の庭に連れて行き、桜の木の下に雪姫を縄で括りつけて座らせました。
姫の前にやってきたのは軍兵衛です。
「姫様、まもなく弦三郎君が姫を助けようとやってまいりますぞ。いかに剣の達人である弦三郎君でも飛び道具にはかないますまい。姫様の後ろの茂みの中には、新式の鉄砲を持った私の部下が狙いをすまして待っておりますわい。この鉄砲は火縄式ではなく撃鉄式になっておりまして匂いもないので悟られることもないというわけですわい。ただ姫様がそのことを弦三郎君にお知らせできないようにしなければなりませんので、さ、房元様、姫様に猿轡を」
「軍兵衛、そなたは私を囮にして鉄砲まで使って弦三郎様を殺そうというのですか。あなたたちはそれでも武士ですか。恥をしりなさい」と叫ぶ姫の口に房元は無理矢理布切れを丸めたものを詰め込み、白い布で猿轡を噛ませてしまったのです。
「姫、今詰め込んだ物は昨日まで拙者が締めておった下帯をちょうど姫の口に合うように切っておいたものよ。口に噛ませたものもその下帯の残りで作ったのじゃよ。さぞかしいい匂いが臭ってくることであろう。」
「ううう、くくう、ぐううう」
あまりのことに姫は猿轡の下で必死に呻き声を漏らします。
「ほほう、まだ呻き声が大きく聞こえてくるようじゃな。よしもう少し厳重に噛ませておいてやろう」
房元は今度は少し青みがかった布で姫の口に被せるように二重に猿轡を噛ませます。
そして懐から松葉模様の山道柄の手拭いを取り出すと、姫の鼻口を覆うように更に猿轡を噛ませるのです。
「ううううう、ううう」
姫はなんと三重に噛まされた猿轡のために呻き声さえも聞き取れないほどなのです。
「これでよし、あとは弦三郎が現れるのを待てば良い。軍兵衛、そなたらはみな物陰に潜んでおれ。あとは拙者に任せておけば万事納まるというものじゃ」
房元は軍兵衛らをその場から去らせ、ただ一人桜の木に縛り付けられた雪姫の横に座り込み、懐から巻物を取り出します。
「姫、この巻物は我らに組する者たちの連判状じゃよ。この中にはその者らの署名と血判が押されておって、五十人ほどの名前が並んでおるのじゃ。ここで弦三郎を葬ればもう我らの天下、恐れるものは何もなくなるわ。それと冬元どのの落馬については、わしの配下の者が冬元どのの伴をしておった際に冬元どのが乗った馬に誰にも分からぬように針を突いてやったのよ。あれほど上手く成仏してしまうとは正に上出来であったわい。ふふふ、ところで姫、先ほどのおもちゃの味はいかがだったかのう。弦三郎めを葬ったあとで今度はわしの本物の物を姫の下の方にある口にぶちこんでやるわい。その上で正式に祝言をあげて晴れて夫婦になるのじゃ」
なんと房元は、雪姫の兄である冬元までも殺害していたのでした。
房元は舐めるような目で雪姫を見つめながら肩に手をかけてくるのです。
「くうう、うううう」
雪姫は嫌がるように顔を背け目を伏せて抵抗するような姿をみせますが、いかんせん縛られた身では逃れることもできず、房元に引き寄せられてしまうのです。
そのとき見張りの者が門のほうからかけてきました。
「弦三郎君が参りました。どうやら一人でやってきたようです」「ご苦労、お前も物陰に隠れておけ。あとはわしに任せておけばよい」
門の方に目をやると、ちょうど弦三郎がただ一人はいってくるのが見えました。
たった一人で姫を助けるために乗り込んできたのです。
「房元どの、弦三郎がこうして一人で参った。雪姫様の縄を解き私のもとに返して欲しい。姫、私が参ったからにはきっとお助けいたしますぞ」
「よく来たな弦三郎どの、よいか、お主が刀ずくで姫を助けようとすれば姫の命はなくなると思え」
房元は刀を抜き放ち姫の首筋に刀を当てて弦三郎を睨みつけながら、「弦三郎これを見ろ、姫の命を助けたければ刀を捨てろ」
姫の首筋に刀を突きつけられて弦三郎は身動きすることができません。
「わかった、房元どの、刀は捨てる。その代わり姫の命だけは助けてくれ、ほれこの通りだ」
そのとき姫は鉄砲が弦三郎を狙っていることを知らせようと目を見張って背後の茂みの方を振り向いたり、物言えぬ猿轡の下で思い切り呻き声をあげてなんとか知らせようとしていました。
「ううう、くくくう、ううう」
弦三郎はその姫の様子を見て何事かを悟ったようですが、腰に差した大小の刀をとり、房元の方へ投げ出そうとしたその時です。
「ダダーン」二発の銃声が響き渡ります。
姫は(弦三郎様が撃たれた)と思い、「ううう、うう」と呻き声をあげ目を伏せます。
しかし、その銃声で倒れたのは、物陰に隠れていた軍兵衛だったのです。二人の狙撃手がまさに鉄砲の引き金を引こうとしたその瞬間に、塀の上から飛んできた二丁の十字手裏剣が鉄砲を持った二人の男たちの手に当たり、狙いが大きく狂ってなんと一発は軍兵衛を貫いてしまったのです。
その十字手裏剣を投げたのは、黒装束に身を包んだ二人の忍者のような者たちでした。
その二人の黒装束は近くに隠れていた配下の者たちの中に切り込んでいったのです。
「ぎゃああ」
軍兵衛の悲鳴があがったとき、房元が一瞬ひるんだのを弦三郎は見逃しませんでした。
「えい」源三郎の手から放たれた手裏剣は過たず刀を持った房元の右腕に突き刺さり「あっ」とうめいて刀を取り落としてしまいます。
弦三郎は一度放り出した刀を取り、一直線に房元のもとに駆け寄り、上段から刀を力任せに振り下ろすと、房元の脳天は二つに割れ、すさまじく血潮が飛び散ったのです。
姫のもとに駆け寄った弦三郎は素早く縛めを解き、何重にも噛まされた猿轡も解いてしっかりと抱きしめるのです。
「雪姫どの、遅くなりました、さぞかし怖い目にお会いになったことでしょう。もう大丈夫です。ご覧なさい、房元も、軍兵衛も息絶えておりますし、配下の者たちももはや抵抗しても無駄だと悟ったようで、次々に退散いたしておりますぞ」
「弦三郎様、雪はきっと弦三郎様が助けに来てくださると信じておりました。でも弦三郎様がそのために命を落とされたらなら、雪もあとを追って自害しようと心に決めておりました。こうやって二人が抱き合えるとは夢ではないかと今でも信じられぬ思いでございます」
さてここで、なぜ鉄砲で狙っていた男たちのところに黒装束の忍者たちの十字手裏剣が飛んできたのでしょうか。
松平弦三郎は、大和の国にある松平家の三男坊ですが、時の将軍吉宗とは吉宗が紀州家の部屋住みであった頃からの遊び仲間で、吉宗が将軍になってからも折に触れて話し相手になって親しく交流していたのです。
秋月藩でお家騒動が持ち上がっていることを察した弦三郎がそのことを吉宗に相談したところ、「それならば俺の直属のお庭番を弦三郎の元に差し向けるので、弦三郎の意のままに存分に使ってもらえば良い」と腕利きのお庭番である才蔵と眞弓という男女の忍びが弦三郎の元にやって来て自由に使うことを許されていたのです。
そこで弦三郎はこの二人を隠密裏に秋月藩に潜り込ませ、これまでの軍兵衛らの動きを探らせていたのでした。
そして、この日も茂みの中から鉄砲で狙っていることもすべて事前に察知しており、鉄砲の引き金を引こうとした瞬間に十字手裏剣で男たちの腕を狙ったのでした。
その際狙いを誤った玉が軍兵衛の体を貫いたのは全くの偶然ではあったのです。
このあと二人のお庭番は配下の者たちの中に切り込んだのですが、軍兵衛も房元も討たれてしまったとあっては、みんな戦う気力もなくなってしまい蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていったということです。
雪姫とともに秋月城に入った弦三郎は城主春元を座敷牢から助け出し、軍兵衛たちに組していなかった家来たちも多数かけつけてきて、秋月藩のお家騒動もようやく収束したのです。
このあと、雪姫と弦三郎の祝言が執り行われることになったのですが、媒酌人にはなんと将軍吉宗がかってでて、華やかにかつ美しく祝言が執り行われたのでした。
もちろん家督相続の件についても入婿である弦三郎を跡目とすることが認められ、春元は隠居して晴れて弦三郎が秋月藩当主となったのでした。
弦三郎と雪姫の間には二人の若君と一人の姫君が誕生し秋月藩は明治維新まで栄えたということです。

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