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ここは、自分のこだわりを書き綴った場にしたいと思ってます。小説はすべて私の頭の中の妄想・空想を書き綴っています。


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US様投稿小説 少年探偵は囚われの身がお好き

第1章
―――昭和60年の夏休み。
ここは東京S田谷区、D沢にある図書館です。小学六年生の橋本淳之輔はカウンターにほど近い閲覧席で、江戸川乱歩の少年探偵団シリーズを読みふけっています。
少々きかんきなワンパク少年めいた表情の中にも、理知的な好奇心に満ちた瞳が印象的な少年ですが、リンゴのようなほっぺはまだまだ幼さを醸し出します。
水色のランニングシャツに、ブルージーンズの半ズボンが昭和の男の子らしさを表す一方、活発なわき目も降らず活字を追う熱心な文学少年の様子を、微笑んで見つめる綺麗なお姉様は、この図書館のマドンナ司書、佐伯由美子嬢です。
文部省の高官を務める父を持ち、大学時代は淳之輔の家庭教師もしてくれた馴染みのお姉様と目の合った少年は、少々熱っぽい瞳で彼女に憧憬と芽生え始めた思慕の上の入りまじった視線を投げかけますが、すぐに慌てて目をそらします。
「相変わらず、勉強熱心ね、淳之輔ちゃん」
書架の整理が一段落した様子の由美子嬢は、微笑しつつ小声で、ご近所さんの男の子に親しみある口調で囁きます。

肩までかかる微かに栗色がかったセミロングに、大きな瞳がその聡明さと知性を印象付けます。
白いブラウスに黒のタイトスカートも落ち着いた大人の上品な所作を引き立たせ、読書に夢中だった淳之輔も思わず視線を奪われます。
小柄で細身の由美子嬢ですが、清楚ないでたちとは裏腹に、女性の色香を放つ妖しい肉体をお持ちのようで、ブラウスの下で揺れる二つの膨らみから、思わず目を背ける淳之輔です。
「その様子だと、夏休みの宿題はもうとっくに終わったってところかしら?」 
さりげなく、夏休みの宿題のやり残しを心配する由美子嬢。
図星を突かれた様子で、気まずそうにその美貌から目を背ける淳之輔です。
「しゅ、宿題はちゃんとやるもん! でももっと大事な用事があるんだよ、今日は」
少々、ほっぺを膨らませつつ意地を張ったような表情を作る12歳の少年ですが、その心をすでに由美子お姉様は察している御様子です。

「ふーん、わかったぞ、淳之輔ちゃん。今日、あなたがここに来た理由が」
由美子嬢は、臼ピンク色の綺麗な唇を少しだけ隠すようにして歌うように小声で笑うと、少年の横顔を覗き込むように腰をかがめます。
淳之輔の鼻腔を、甘い髪の香りがくすぐります。
「噂の怪盗、‘蜃気楼’を見たくて来ている…そうでしょう?」
彼女の言う蜃気楼というのは、このS田谷区の資産家の家に出入りしては、宝石や絵画等を盗み出している怪盗のことです。
と、いってもその姿を見たものはおらず、ここ一年ばかりS田谷区内で密かに噂になっているのです。
ローカル紙や週刊誌の片隅に、窃盗の前と後に怪文書を残すことが報じられている、いわば都市伝説的な存在にすぎません。
ですが、空想の世界に浸ることが好きな好奇心旺盛な男の子の冒険心を掻き立てるには十分な存在といえましょう。
実は、その怪盗蜃気楼が、この図書館で明日から開かれる『S田谷区在住名画家展』の展示物を盗み出すという犯行予告が送り付けられたと、淳之輔の小学校ではもっぱらの噂なのです。
「ふふふ、そんな怪盗が本当にいると思うの? 乱歩の小説じゃあるまいし」
子供の扱いに手慣れたお姉様も、この件についてはリアリストの性格そのままに、まるでその存在を信じていない御様子です。

「それに、小学生の淳之輔君じゃ、明日の絵画展には入れないんだから、あ・し・か・ら・ず、!」
と、家庭教師の口調で淳之輔をじっと見つめ、嗜めます。
「知ってるよ…」
と、いうのも、秘密絵の原画者の一人、平山宏彦の描いた点描『怪写轡画』は一見すると、かつては田園風景が広がっていたこのS田谷区で見られたであろう牛の手綱を引く農夫を描いた作品でしかありません。
しかし、角度を変えて目を凝らすと、まったく別の絵柄が浮かび上がるという密かな噂があるのです。
それが、どういう絵なのか、気になる淳之輔ですが、そこは早熟で察しの良い少年のこと、区立図書館では異例の年齢制限を設けていることからも『大人の世界』を描いているのもであることを想像している様子です。
しかし、憧れのお姉様に、機先を制されてしまい、無理にでも入場させてほしいとは口が裂けても言えません。
「でも、蜃気楼が犯行予告を送ってきたんでしょ? ちゃんと警備しないと」
「悪戯に決まっているでしょう。さ、静かにご本を読みなさい。それと早めに帰ってお勉強お勉強」
由美子嬢は、またもとびっきりに優しげな笑みを浮かべると、蠱惑的な唇に人差し指を立て、淳之輔に読書の再開と、夏休みの宿題のやり忘れ注意を促しました。その様子を微笑まし気に見つめているのは、館長の保坂さんです。
「ハハハ、やはり来ていたか、淳之輔君。ま、佐伯君を困らせない程度に、探偵ごっこを楽しみなさい。もしやしたら、本当に蜃気楼が現れるかもしれないぞぉ? その乱歩の小説に出てくる怪人二十面相みたいに、ね」
保坂館長は、淳之輔が傍らに積み上げている文庫本を眺めつつ微笑みます。
「まぁ、館長ったら、困りますわ」
由美子嬢は、またもその美貌を曇らせるのでした。


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