振り返ると、ひかるが立っている。
でも、声はまったく違う。
でも、容姿は紛れもなくペットで飼っているひかるなのである。
「ふふふ、気がついたかい? きょ・う・か・さん。」
「ちょっとあなた誰?ひかるじゃないわね。ここはどこ? 私をどうする気? 何が目的なの?お金?」と喚いた瞬間だった。
今まで優しそうな顔をしていた男の表情がいきなり一変したのだ。
「うるせい! 静かかにしな!」とドスの効いた声で一喝されたのである。
ビクンと反応する京香。
それから、男は腰から大きなジャックナイフを抜き、左手に持ちながら、にやりと笑って、また男がドスの効いた低い声で話しかけてきた。
「いいか、よく聞きな。今度、勝手に大きな声を出してみろ、その小皺だらけの顔に大きな赤い大きな皺を加えてやるからな。」
男はナイフを京香に近づけながら、凄んでみせたのである。
「いいか、静かにしてたら、無傷で帰してやる。俺は金なんかが目当てじゃないんだ。
あんたがお目当てさ。ふふふ。昔からあんたが、憧れだったんだぜ。ねっとりと楽しませてやるからな。ほら、これを見なよ」
男は、封筒からたくさんの写真を京香の目の前に広げて見せた。
それは、京香が一流のファッションモデルとして活躍してた頃から、今までの間に隠し撮りされたたくさんの写真だった。
いつの間に撮られていたのだろう?
普段の京香の生活が、すべて写っているのだ。
部屋の中の姿まで、望遠レンズで撮られたものまであるのである。
京香は、男が自分のストーカーだと気付いた。
(でも、いったい誰?ひかるじゃないの?でも声も、雰囲気もまるで違うわ)
そう心で思う京香を他所に、男が話し続けた。
「結婚してからのあんたは、少し生意気になったようだな。ワイドショーでカリスマ主婦なんて持ち上げられ方してるのみても、『ヒルズ族のセレブの毎日』とか言う番組で、得意そうにインタビューされるのを見ても、1回ここらでお灸を据えてやらないと、あんたが、どんどん生意気になっていく気がしてな。それで、今日はたっぷり折檻してやろうとしたのさ。・・・・・ああ、それから、俺の名前は、ベスト。ベスト・キッドと覚えていな。
また、図に乗るようだと、またお仕置きしてやるからな。わかったな。さあ、起き上がって、そこに座りな。正座するんだぞ。」と言って不敵な笑顔を見せたのである。
後ろ手に縛られ、不自由な身体を起こしながら、京香は起き上がった。
しかし、京香にはこんな男の言いなりになるなんてプライドが許せなかった。
「生意気ってどういう意味です、私に命令するのね? あなた誰なの?わたしに指図するなんて何様のつもり?お金が欲しいのね?」
と思いっきり虚勢を張ろうとした次の瞬間だった。
畳の上に置いてあった和裁用の1メートル物差しを、男は掴むと、思いっきり京香の
太ももを打ちつけたのである。
ピシッと音をが鳴り響き、男が一層凄んだ。
「早く正座しろ、っていいてるんだよ。」
怯えた表情になった京香は仕方なく言われた通り、従順に従うしかない。
「・・・お願いです。ひどいことはしないで下さい。おとなしくしますから・・・・・・。」
「もちろんさ。言われた通りにすれば、これ以上ぶったりしねえよ。俺は女に傷をつけたりするのが大嫌いなんだ。さあ、キチンと膝を揃えて正座しなよ。ほらこれをみな」
そう言って男が手にぶら下げたのは、京香のレモンイエローのTバックのショーツだったのだ。
「先に拝借させてもらってぜ。膝を合わせないと、中が丸見えになっちまうぜ。ふふふ。
何か言いたそうだな。・・・だが、もうおしゃべりはお終いだ。」
男は畳の上にある日本手拭を手に取り、器用に一回大きく輪を描くと、布の真ん中に大きな結びコブを作った。
千鳥柄の濃紺の模様が絶妙に入り混じった結びコブはかなり大きい。
「これがなんだか判るよな。へへへ」
京香にはそれが自分に噛まされる猿轡だとすぐにわかった。
「お願い、静かにするわ。・・・・猿轡はやめて・・・・。」
「猿轡はやめてじゃなくて、やめてください、だろう?」
「・・・・・・お願いです。猿轡はやめて・・くだ・・さい・・・・・」
京香は屈辱を噛み締めながら、声を絞り出した。
「猿轡をやめてください、か。・・・・ふふふ、やあだよ。はははあ」
「さあ、口を開けな。・・・ほら。早くしねえかよ」
男は、そう言いながら、手に持った京香のピンクのTバックを簡単にまとめ、
小さな布の塊にしたのである。