9章
瞳がかどわかされから、すでに5日が過ぎようとしていた。
この間、瞳は一度も縛めを解かれることもなく、蔵の中に押し込められていたのである。
この5日間、あの顎が痺れるような桜の木で作った猿轡をしっかりと噛まされ続けていた。
排尿も排便も絵里が指図した。
その姿も、由蔵はしっかりと描くのである。
絵は、瞬く間に江戸中に評判になった。
人の口に戸は立てられぬの諺通り、江戸町民はおろか大名、旗本にまで瞳の姿態を描いた絵がひそかに流通するようになったのである。
いくら公儀が、取り締まろうとしても、取り締まっている役人自身が男心をくすぐる絵の続編を見たいと思う以上、取り締まりに身が入いらぬのは道理だった。
そのことを報じる瓦版も、また飛ぶように売れた。
遠山桜の狂い咲きとのタイトルで、天下の北町奉行の奥様が拉致され、盗賊一味から嬲り者にされているのを面白おかしく報じたのだ。
「いかがでございます。奥様、もう、江戸の街では奥様のことで、町中大騒ぎでございますよ。・・・・・・・・・・遠山桜と謳われた瞳奥様のこのお姿は、町民にはあまりにも刺激的過ぎますものね。ほほほ。みんな口々に可哀想だとか言いながら、本心から思ってる男なんぞいませんよ。みんな奥様の次のお姿を待ち望んでいるんですよ、でも、今日売り歩いている排便する奥様のお姿で最後に致しますわ。これ以上やせ衰えた奥様を描いても、もう面白くございませんもの。・・・・・・実は、かわら版屋の春川屋に、長崎から今までのことを全部記した手紙を送りつけましたわ。明日になれば、黒木家と西郷屋、それに遠山奉行様がやった過去からこれまでの悪事の数々が江戸中に知れ渡ることになっているのですよ。」
虚ろな目でにらみ返す瞳に、絵里が続けた。
「もう一人、奥様、動かぬ生き証人がいるのですよ。ほら、あれを御覧なさいまし」
そう言って、絵里が合図をすると、手下が、土蔵の床下の隠し扉を開けて、中から一人の男を連れ出してきた。
全裸でキチキチの高手小手に縛り上げられ、口には褌の猿轡を噛まされている中年の男だ。
紛れもなくその男は、父の盟友の西郷屋輝衛門だったのだ。
長い時間縛られたまま監禁され、厳しい拷問が加えられたらしく、衰弱していたが、瞳を見つけると目を大きく見開き驚嘆の表情を浮かべた。
「この男が、これまでのことを全て白状いたしましたわ。証拠の念書もすでに西郷屋に忍び込んで手に入れてございます。ふふふ。明日の朝早く、お二人には江戸の日本橋まで行っていただきますわ。そこで解放致します。動かぬ証拠の念書を身体に縛り付けてね。ほほほ」
翌朝、江戸の町は大騒ぎになったのだ。
西郷屋と瞳の2人が、全裸のまま縛られ、日本橋の橋の欄干に鎖で縛り付けられていたからである。
2人ともM字開脚縛りに高手小手の後ろ手縛り。口には南蛮渡来のゴムの猿轡が噛まされており、結び目には革が使われ、南京錠で留められていたのだ。
その上、首輪が施され、首輪の先端から鎖が延び、橋の欄干に繋がれていたのである。
朝から、町民たちでお騒ぎになり、町役人が駆けつけてた時には、ものすごい野次馬が集まっていた。
役人が慌てて縛めを解こうにも南京錠と鎖に阻まれ、介抱出来ないのだ。
2人の縛めが解かれたのは、夕刻になっていた。
その間、いくつもの瓦版屋が集まり、その姿をお抱え絵師に描かせて号外として江戸中にばら撒いたのである。
その後、黒木家と遠山家はお家断絶。黒木筑後守と遠山金四郎は切腹。西郷屋輝衛門は打ち首獄門。
しかし、瞳のその後はようとして知れなかった。
復讐鬼と化して、ねずみ小僧一味を追い続けたのかもしれない。
〜完〜
次回は是非、男性被虐の現代モノを(汗)!